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こい(@gyaradus)のブログ

【ゴールディング】『蠅の王』――2022年2月に読んだ本について

2月に読んだ本からとくに気になった5作品の紹介。


1. 『呪われた町』(スティーヴン・キング

 ミス研(リーズニング・クラブ)の2月の課題本。作品が意図しているであろう恐怖(さまざまな形で町に飲みこまれること)に乗れなかったため、自分はあまりキングのいい読者ではないような気がした。といっても、そういった読者にも、たのしめる仕組みにしてあるのは、さすがというべきだろうか。社会を描く枠組みはフォークナー的だし、人生のとらえ方はフィッツジェルド的、しつこくねばりつくような描写もひとつひとつは飾りがなくへミングウェー的で、想像の生み出す恐怖はポーと、さまざまなアメリカ文学の技法が複合的に使われているのではないかという指摘があった。


2. 『エル・アレフ』(ホルヘ・ルイス・ボルヘス

 ボルヘスの文章は厚みがある。ただの並列的に飾り立てた文章と違ってそう感じるのは、それらが「不死性」に関するボルヘスの価値観を色濃く反映しているからだろう。「不死の人」「アヴェロスの探求」「エル・アレフ」といった作品にこの面がとくに出ていたように思えるが、「死んだ男」「戦士と拉致された女の物語」のような“秩序とともに生きる”ことを描いた作品や、「エンマ・ツンツ」「もうひとつの死」などの“独特な因果律の捉え方”についての作品も無関係ではない。価値観はショーペンハウアー、技法はチェスタートンが元ネタのように思える一方、読んでいる間は、本邦の『ドグラ・マグラ』に近い興奮を感じていた。


3. 『ユートピア』(トーマス・モア

 経済史にも思想史にも疎い私は、「これは共産主義ではないか!?」とおどろいた。ユートパス王が治める国・ユートピアでは、私有財産が否定され、だれもが勉学に励み、宝石は子どものおもちゃで、金は便器の材料となる。聞き手のモアに「競争がなければ発展し続けることはないのでは?」と疑問を呈されるこの16世紀の架空の国は、安部公房が『仮説の文学』でいう「日常のもつ安定の仮面をはぎとり、現実を新しい照明で照らし出す反逆と挑戦の文学伝統」であるところの「空想科学小説」を体現している。400年前の古典を通してSFものへの興味が引き立てられた。


4. 『デジタル・ミニマリスト』(カル・ニューポート)

「脳がスマホを見たがってるんだから、そのとおりにして過ごすのが良き休暇……」などと思っていると、まんまと企業の戦略にはまったことになる。ツイッターやインスタではいいねやリプライなど他人からのアクションが報酬となっている、というのは多くのひとが感づいているだろうが、それがスロットのような中毒性を持つのは、本人の意志の強い弱い以上に、企業が各種サービスにあらゆる仕掛けをほどこしているからだということがわかる。セルフコントロールに役立ち、知的好奇心を刺激する読み物としても良い一冊。


5. 『蠅の王』(ウィリアム・ゴールディング

 無人島に不時着した少年たちの世界は、ピュアであるものの、世間が通俗的に捉えているような繊細で美化されたものではない。むき出しになった社会の縮図だ。自分が権力を持っていないと我慢できないやつがいて秩序をどんどん乱していくし、専門家の意見よりも暴力で勝る人間の意見が通る。合理的な未来志向よりも、自称リアリストの考えのない行動が需要を満たし、賢いはずのひとも党派を組まなければなにもできない。自分もこのようなシステムのどれかに位置しているのだと思うと、ぞっとさせられる。もちろん、冒険もの、ホラーものとして読んでも抜群におもしろく、なにげない描写から恐怖を引き立てていく技法は大いに参考となった。
 無人島に漂流するホラー短編を構想していて参考として手に取った作品なのだが、当然といえば当然のことながら、これが圧倒的に完成度が高く、おいそれと同種の作品を制作するのがむずかしくなってしまった……。



その他2月の活動


 高校物理の勉強について、「1月中に40時間勉強する」という目標を立てたが、その通りに達成することができた。『橋元の物理をはじめからていねいに』を全問正解にまでこぎつけると、『高校物理Iの点数が面白いほどとれる本』や『物理のエッセンス』もほとんどの問題は難なく解けるようになる。一旦、これらの問題集を教材アプリの《ワードホリック》で復習しながら慣らしていき、次の段階として『高校物理重要問題集』にとりかかる算段だ。
 3月中は、リーズニング・クラブの活動の一環として、「スティーヴン・キングを参考にした作品の制作」にとりかかることとする(まあこれ書いてるの3/30で、もうとっくに作品完成してるんだけど……)。完成作品は、当ブログに掲載するか、ミス研用ブログを作ってそこに載せるか思案中……。