【ミステリー】『モルグ街の殺人』他──新入生にオススメの推理小説40冊
1.『モルグ街の殺人』(エドガー・アラン・ポー)
最初の名探偵デュパン。現実にいそうな名探偵は、推理小説というジャンルがなかった時代に現れたこの男だけ!? ニューヨークでじっさいに起きた殺人事件にデュパンが挑む「マリー・ロジェの謎」、歴史ある換字式暗号を解体してしまう「黄金虫」などもあわせて。
2.『緋色の研究』(アーサー・コナン・ドイル)
魅力ある変人探偵を見たいなら、やはり我らがシャーロック・ホームズ。この男、地球が平面であっても構わないと思っている。
3.『ブラウン神父の童心』(G・K・チェスタートン)
カトリックの神父がじつはいちばん論理的? 偽善や絵空事が嫌いというひとこそブラウン神父の推理を見てみよう。
4.『レイトン・コートの殺人』(アントニー・バークリー)
「推理小説でこんなお約束やぶりがあったら笑えるなー」なんておもいつきで書かれた作品は、100年前からあった。現代版には『名探偵の掟』(東野圭吾)がある。
5.『ベンスン殺人事件』(S・S・ヴァン・ダイン)
「推理小説に恋愛などいらん」といいのけた作者の作品。じゃあどうやって読者をたのしませるのか?
6.『ナイルに死す』(アガサ・クリスティー)
「なんで『名探偵コナン』はカップルばかりなの!?」にたいするこたえのひとつ。じつはそれが意外と推理小説的だから。
7.『Xの悲劇』(エラリー・クイーン)
「こんな手がかりで事件が解けるわけがない!」と推理ものにイライラしがちの諸氏、さっそくこの作品に挑んで、ケチをつけてやろう。むしろ怖くなってくる。
8.『三つの棺』(ジョン・ディクスン・カー)
推理のマニュアルがあればだれにでも推理小説が解けるはずじゃないか! そしてフェル博士はほんとうにマニュアルで不可能犯罪を解いてしまう。どの項目にも分類されない謎を知っている? それなら、きみが更新を行うチャンスだ!
9.『マルタの鷹』(ダシール・ハメット)
世界大戦と恐慌による秩序の崩壊で、現代の色を帯びはじめる都市。暴力とセックスと駆け引きが渦巻く中、新たなタイプのシャーロック・ホームズが誕生した。
10.『伝奇集』(ホルヘ・ルイス・ボルヘス)
ボルヘスは推理小説の本質を「秩序」といっている。推理小説をパズルと思えるまで解体できているなら、こんなおかしな構造のものだって生み出せることがわかるはずだ。
11. 『死の接吻』(アイラ・レヴィン)
コロンボや古畑さんでおなじみ犯人が最初からわかっているミステリー。と思いきや、犯人もトリックもわからない? どういうこっちゃ?
12.『時の娘』(ジョセフィン・テー)
ベッドの上で動けなくともミステリーは生まれる。これに影響されて「チンギス・ハーンは源義経だ!」といいだした日本の名探偵がいた。
13.『運命』(ロス・マクドナルド)
センチなヒーローのリュウ・アーチャーはこれ以降、めっきり影が薄くなる。その代わり、ロスマクは代表作を生み出し続けた。
14.『九マイルは遠すぎる』(ハリー・ケメルマン)
「9マイルも歩くなんて大変だ~。しかも雨だし!」。こんな言葉だけで推理が展開されていくはずあるか? それがあるらしい。
15.『シンデレラの罠』(セバスチャン・ジャプリゾ)
記憶喪失の“わたし“は、証人かもしれないし、被害者かもしれないし、犯人かもしれない。探偵役でもあるが、証拠をくれるのも自分自身。この作品を“他人”と話しあいたいと思えるのは、きわめて正常な印です。
16.『黒後家蜘蛛の会』(アイザック・アシモフ)
解説では「他愛もない謎」「ただのクイズ」なんていわれてるのに、この作品集の愛好者は尽きない。「ただのクイズ」程度の謎でも、それに参加する人々の発想は広がり続けるのだ。
17.『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』(ウィリアム・ブリテン)
表題作以外にも、「シャーロック・ホームズを読んだ男」もあるし、「アイザック・アシモフを読んだ男」だってある。日本には「『ジョン・ディクスン・カーを読んだ男』を読んだ男」なんて作品を書いた人間までいた。すぐれた作品は生物のように繁殖し続ける!
18. 『ウッドストック行き最終バス』(コリン・デクスター)
次々と仮説を立ててそれを検証していく「ウミガメのスープ」を推理小説でやるとこうなる。
19. 『初秋』(ロバート・B・パーカー)
事件の捜査よりも、事件関係者の筋力トレーニングに力を入れ始めるスペンサー。むしろがこれこそ“事件”解決の道か? 気に入ったならジョージ・P・ペレケーノスも読もう。
20.『犯罪』(フェルディナント・フォン・シーラッハ)
いろんな犯罪の記録がいっぱいだ~。と思えるかもしれないが、それぞれの作品における「秩序」は何だったかを考えていくと、共通点が見えてくる。どうやら禁断の果実はリンゴとトマトのようだ。
21. 『本陣殺人事件』(横溝正史)
日本には日本ならではのガジェットがある。「引き戸の日本邸宅でどうやって密室トリックなんて作るんだ?」という疑問にたいする解答。『獄門島』や『悪魔の手毬歌』なんかも応用例?
22. 『黒死館殺人事件』(小栗虫太郎)
大インテリの巨匠・松本清張をして「難しくてむかつく」といわしめたトンデモ本。「わけわからん! 買って損した!」という前に1ページだけでも開いてみよう。
23. 『りら荘事件』(鮎川哲也)
解決編で疲れてしまったら、同じく星影龍三ものの「赤い密室」を読んで頭をスッキリさせよう。むしろ感動してしまったという奇特な諸氏は、『黒いトランク』を読むべし。
24. 『太陽黒点』(山田風太郎)
推理小説の登場人物たちは作者に操られているように見えるかもしれないが、じゃあ現実の人間たちはそうではないのかというと……。冒頭からずっと出ている「死刑執行まで○○日」ってなんぞや?
25. 『砂の器』(松本清張)
じつは、泣ける話というわけでもなく、むしろトンデモ話もいいところだったりする原作。しかし、リアリティー重視の作品を志向している作者がなぜ“こんなもの“を採用したのか、作品のテーマと絡めて考えてみよう。
26. 『ちみどろ砂絵』(都筑道夫)
濃縮された推理小説とはこういうもの。パラパラとページがめくれて驚けて感動できる話とは真逆なピリッと鋭いアナーキーさ。
27. 『冷蔵庫より愛をこめて』(阿刀田高)
ヘーゲル研究者の加藤尚武にいわせれば「ジョークは小さなミステリー」だそうだ。“怖いコピペ“にはまったことあるひと、必見。
28. 『匣の中の失楽』(竹本健治)
記述の信頼性が低くなれば低くなるほど、現実感は希薄になり、読者は「あちら側にいってしまったひと」の感覚を追体験することになる。元ネタである『虚無への供物』においてこちら側を飲みこもうとする“また別の現実“とはなんだろう?
29. 『終着駅殺人事件』(西村京太郎)
大ブームとなったトラベルミステリーの代表選手としてはこれ。『南神威島』や『ある朝 海に』など、じつは「異」に接することが作者の古くからのテーマとしてある。
30. 『しあわせの書』(泡坂妻夫)
こんなの思いついてもふつうはやらないが、全力でやってしまうし、やれてしまうのがマジシャンでもあるこの作者。ほかの例として『生者と死者』もどうぞ。
31. 『空飛ぶ馬』(北村薫)
地味であるはずの日常の謎を楽しませるには、どんな工夫がいるか。「主人公が起きるシーンから話を始めてはいけない」とどこで聞きかじったことがあるひとは、どうして「織部の霊」では主人公が起きるシーンが冒頭に配置されているのか考えてみよう。
32. 『霧越邸殺人事件』(綾辻行人)
「作者が読者に向けて出すヒント」であろうものが「不思議な館の意志を読み取る」という観点で推理に組みこまれてしまうところまできた。もうすこしダイレクトなメタ視点での推理小説としては、同作者の『迷路館の殺人』、『どんどん橋、落ちた』がある。
33.『探偵映画』(我孫子武丸)
各人の目標は、「自分に都合のいい推理」を作ること。失踪した映画監督に代わってスタッフたちが推理映画の結末を考えるこのお笑い劇は、探偵たちの本質をなんとよくついていることか。
34. 『奇想、天を動かす』(島田荘司)
おどるピエロは自殺し、白い巨人があらわれ、列車が空を飛ぶ! こんなホラ話に解決なんてあるのか? あるのだ!
35. 『翼ある闇』(麻耶雄嵩)
推理小説マニアの冗談を薄めることなく原液のまま世に出してしまったカオスな一品。「わけがわからない」と思った諸氏、それは不幸な衝突事故だ。
36. 『姑獲鳥の夏』(京極夏彦)
あまりにも常識から外れた真相でも、論理的な説明がつけられれば成立するのか? いや、どうやらその常識なるもの自体がそもそも曖昧な概念なようだ……。
37. 『コズミック』(清涼院流水)
混沌のメフィスト賞を語る上で外せない一冊。
38. 『白夜行』(東野圭吾)
奇抜な構造にこそ東野の真骨頂はある。『新参者』もじつはただの日常推理じゃない。
39. 『小説スパイラル 鋼鉄番長の密室』(城平京)
“お約束“あるところに推理小説は生まれる。というのは、じつはマンガ『スパイラル』の根幹をなしている部分だったりする。ノベライズならではの仕掛けに挑戦した作品なら、西尾維新の『ロサンゼルスBB殺人事件』も意欲的(『デスノート』のファンがおもしろがれるかどうかは知らんけど)。
40. 『密室殺人ゲーム 王手飛車取り』(歌野晶午)
「トリックのためのトリック」もここまで堂々とやれば立派な推理ものとして成立する。続編の『密室殺人ゲーム 2.0』ではここからさらにグレードアップ。