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こい(@gyaradus)のブログ

【クイーン】『ギリシャ棺の秘密』──2022年12月までに読んだ本からベスト20を発表!

 昨日投稿した10月~11月分の読書録の記事を読めばわかるとおり、12月はポケモン漬けとなっており、5冊ピックアップできるほど本を読んでいません。しかし12月といえば、その年の総決算ともいえる月。そこで、今回は2022年に読んだ本からベスト20を選び、紹介していきたいと思います。それではまず11位~20位からご覧下さい。

 

20.『大鏡

19.『宇治拾遺物語

18.『鋼鉄都市』(アイザック・アシモフ

17.『秋の花』(北村薫

16.『夜来たる』(アイザック・アシモフ

15.『キャリー』(スティーヴン・キング

14.『エル・アレフ』(ホルヘ・ルイス・ボルヘス

13.『響きと怒り』(ウィリアム・フォークナー

12.『ユートピア』(トーマス・モア

11.『第四間氷期』(安部公房


 1月~3月はスティーヴン・キングの月ともいえ、初期作を読み進めていったのに加えて、模倣作品も作ったが、「これだ!」といえる作品には出会えず。ベストはまだ『恐怖の四季』のまま。単純にいちばんおもしろくて、キングの技法をわかりやすく感じられたのは、デビュー作である『キャリー』だった。キングに関連して読んだ作家では、フォークナーとゴールディングにおどろかされた。
 4~6月にはクリスティーの読書会を行い、そこに関してミステリもいくつか読んだが、いちばん好みの造形だったのは北村薫の諸作品だった。クリスティーの作品もたのしんだが、再読が多かったため、上位に挙げられるものは少なめ(クイーンは再読でもベスト10に入っているけど。まあこれはもともとの趣味の問題もあるか)。
 7月~9月にアシモフで読書会を行った影響か、例年に比べると、SFを読んだ分量が多い。アシモフ安部公房の諸作品、『ユートピア』には、「こうたのしむのか」と思わされた。
 10月から国内の古典文学を読み始めたが、和歌への理解がまだまだで、十全にたのしめたといえる作品は多くない。とくに『蜻蛉日記』と『和泉式部日記』は、全体的に和歌で埋め尽くされており、このあたりのおもしろさがわかれば……とやきもきした。

 続いて1位~10位の発表である。

 

10.『停滞空間』(アイザック・アシモフ

 学ぶことは、なぜ必要なのか。「ただ、たのしいから」というキャッチコピーを信じるとすぐ挫折する。学ぶことはいつでもたのしいわけではなく、ほとんどは地味なルーティンの反復だ。「生活に役立つから」は、順当なこたえだが、生活に役立つか役立たないかがどう決まるのかがわからない。本書に収められているある作品では、この疑問にたいしてひとつの解らしきものが与えられる。「学ぶ」と「生きる」は深く結びついているのである。


9.『エジプト十字架の秘密』(エラリー・クイーン

 数あるミステリのテーマの中でも魅力ある「首切り」。このテーマに関するトリックを創案したいと10年以上思っているがいまだにまともなものを思いついていない。『エジプト十字架』に関して、「首切り」をどのように扱っているか、と読み直すことによって、着想に広がりを持たせることができた。クイーンのストーリー進行の変遷を見るにあたっても重要な一冊。

 

8.『人生論』(レフ・トルストイ

 トルストイの絵解き本であると同時に、「利他主義」について考えさせれた一冊。「個我」がいちばんやっかいだというのは、スピノザショーペンハウアーも書いていることだが、その克服のために行きつく道のひとつが「常識的」であることは否定できない。それに順応できるかどうか、させるべきかどうかは別として。君子は和して同せず、小人は同じて和せず。


7.『パンセ』(ブレーズ・パスカル

 気がつくと、「愚昧な他人と聡明な自分」について語りたがっている。この本を読んでからもだ。歴史に残る天才パスカルですらそんな自分の矮小さを感じ続けていたのだから無理はない。しかし、「軽蔑」に、仲間内での連帯を強める以外、どのような効用があるのだろう。オープンマインドの一歩。自分の無力さと矮小さを知ることである。チョッキヌメルゴンも特殊アタッカー対面で圧力をかけられることは確かだろう。


6.『オランダ靴の秘密』(エラリー・クイーン

 ひとつのモチーフからすべての謎が解き明かされていくこの構図の美しさ。憧れないものがいるだろうか。ある“物”が持ちうる属性を抜き出していき、そこから情報を読み取っていく。読者がシャーロック・ホームズになり、モース警部にもなる。「ハーバート・クエーンの作品の検討」で語られた「作品を生産する愉しみ」。それを触発してくれるのが、ロジックによる推理の構築であり、その演出のためにも作品は整然としているべきなのだ。


5.『源氏物語』(紫式部

 2022年は古文の勉強をあるていどしたこともあり、作品の解像度がぐんとあがった。『源氏物語』は「元祖ギャルゲ」などと形容されることもあるが、登場する女性の多様性や、ひとつの巻でひとりの女性にスポットライトが当てられる仕組みなど、たしかにそうともいえる要素が多い。長い話であるにも関わらず、複数の問題が並列して進行したり、ちょっとしたやりとりで貼られた伏線が数巻をまたいで回収されたり、ほんとうに世界初の長編小説なのか、という複雑さを持っている。ホメロスしかりポーしかり起源にはすべてが詰まっているとはこのことだろうか。

 

4.『ギリシャ棺の秘密』(エラリー・クイーン

 ミス研《リーズニング・クラブ》の12月の課題作品。よく言及される「多重推理」「操りテーマ」「探偵エラリー・クイーンの成長譚」と話の広がる要素は多くあるが、「推理とストーリー進行の連関」というところが、今回読んでいちばん感心した部分だった。たんに推理を並列させているだけで作品に有機的なつながりがあるとはいえず、おもしろみも半減する。メタ的には知的ゲームだとしても、作品内のリアリティーを保つ要素として、「各推理自体が作品世界におよぼす意味」を考える必要性を感じさせられた。


3.『贋作』(パトリシア・ハイスミス

 2022年の夏頃、ゴーゴリの『外套・鼻』『狂人日記』といった作品を再読にするにつれ、「本物の芸術家」のような意識が頭の中に築かれていった。しかしそういう意識を持つこと自体が一種の驕りではないか、とすくなからず懐疑させられたのには、年の初頭に読んだ本作の影響がある。贋作の流通を行う中で、「偽物には偽物なりの価値がある」と考えはじめるトム・リプリー。『太陽がいっぱい』でディッキーのコピーとして自我を持ち始めたトム(絵に関心を持ち始めたことだってディッキーになりすました余波だろう)は、自分の現状に苦悩する贋作師のバーナードに肩入れしはじめる……。と、うっかりあらすじ解説から話を長くしてしまうところだった。なんにせよ、「自己肯定感」のダークヒーローものして非常におもしろい作品である。


2.『蠅の王』(ウィリアム・ゴールディング

「閉鎖空間に閉じこめられた子どもたちが殺し合いを行う」。というと、なんか安っぽい『バトルロワイアル』系の作品のようで、じっさい本作はスリラー的なおもしろさを持ち合わせているが、なによりも心にゾッとする印象を残したのは、本作で描かれた「社会の真理」だ。理想主義の必要性、自己保存のためにそれが否定されていく様子、権力欲のために不安を煽り利用する個人、集団的ナルシシズムに巻きこまれ次第に暴力的になっていくひとびと……。どれも歴史上で繰り返され、そしていま身近で起こっていることだ。ゴールディングは「『イギリス人は文明的』という考えの誤り」を本作の着想許としたそうだが、それがひしひしと感じられた。自分も、周囲の人間も、悪い意味で等しく動物だ。まずはじめに考えるべきことはそれだろう。


1.『外套・鼻』(ニコライ・ゴーゴリ

 去年あたりから、自分に関して、「腐ってしまった」と思うことが増えた。いいものを作っているつもりでも、これといって関心を持たれない。自分の行ってるわずかな努力が具体的にどう形を成すかもわからない。この国では比較的若い人間であるにも関わらず、「老い」に哀しみを感じ始めていた。『外套』のアカーキー・アカーキエヴィチも、わたしと同様、傍から見ればつまらない日常を送っていたが、かれはその日常に満足感をおぼえていた。不幸のはじまりは、努力の末、高級な「外套」を手に入れてしまったことだ。一度“なにか”を得てしまうと、それにしがみつくことに必死になってしまう。大事なのは、自分の決めた航路をもくもくと進み続けることだろう……と気持ちを後押ししてくれた一作である。

 

 以上、20作品の紹介でした。2022年の読書録を漢字1文字で表すなら「道」でしょう。冒頭に書いた通り、ポケモンにはまりすぎて12月にろくに読書していなかったことをごまかすために書いた記事なので、2024年も同様のものを書くかどうかは不明です(勢いで今年の読書録を漢字1文字で表すとかやってしまった……)。