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こい(@gyaradus)のブログ

【カクヨム】『死人とサーカス』──[感想②]首切り講義のうち作例を見たことがないもの

 ツイッターのFFであるカワカミさんが、『死人とサーカス』という本格ミステリカクヨムで連載している。この度完結したということなので、前回の記事に続いて、内容を整理しながら推理を進めていく。

https://kurpfen.hatenablog.com/entry/2022/08/27/050520?_ga=2.73122512.272778124.1674852529-1828440273.1553676710
↑前回の記事

 

第6話「首と挑戦状」:早瀬志帆(2)
●場所:どこかの山の線路跡
●目的:暗号の解読結果の確認
●結果:第一の被害者の発見
・燃やされた生首とかいう激グロいものを見ても平然としているのは、もはや米花町並みの耐性ではないでしょうか。
・赤い引っ掻き文字、なかなかに文章が長い。「喝采」の「喝」はがんばっただろう犯人よ。


第7話 「大量自殺事件」:空木要(4)
●場所:稲生署の二階
●目的:事情聴取
●結果:殺人事件の情報の提示
・ついに出た紙谷さん。高校生が事件に介入しまくってるの『名探偵コナン』っぽさがある。
・「世間の関心は事件から事件へころころ移っている」「ネットリンチ」あたりから、作品のノリが見えてくる。タイトルも「サーカス」だからなあ~。


第8話 「扉の向こうにいたもの」:空木要(5)
●場所:駄菓子屋の横のベンチ⇒不動産の廃ビル
●目的:御堂からのメールの確認
●結果:第二の被害者の発見
・瓶ラムネ!? 時代設定、平成初期というか、1980年代めいていきた。「携帯端末」ってことば選びからも、スマホの存在がぼかされているが、時代設定を令和と明示しないのは、作品の構想から時間が経っている都合によるものなんだろうか……。
・おお、異様な遺体。現代的な建物でインパクトある遺体が出てくるの島田荘司っぽい。


第9話 「密室未満の密室」:空木要(6)
●場所:不動産の廃ビル
●目的:殺人現場の状況説明
●結果:殺人現場の状況説明
・「顔のない遺体」に加えて「密室からの消失」。不可能性を強調する確認作業。新本格黎明期っぽさある。

 

第10話 「噛み合わない取り調べ」:空木要(7)
●場所:稲生署
●目的:事情聴取
●結果:事情聴取の終わり
・絵に書いたような無能警察が出てくる。東野圭吾の『ある閉ざされた雪の山荘』で新本格のこのあたりについていじられていたことを思い出した。

 

 


[現状の推理(※ネタバレ注意)]

 今回、準密室からの犯人の消失が肝になっています。とりま、解いていきましょう。

 

【1. 犯人は密室内に存在していたのか?】
 消失トリックあるあるが、「もとから存在しなかったけど、さまざまな仕掛けをつかって、そこにあるように見せかけていた」というものなのですが、今回はどうでしょう。犯人がいたという根拠は「何かがゴトゴトと動き回る音」「ガラスの割れる音が響いた」という2つの音だけです。この2つの音を外部から作り出すことができれば、犯人が内部にいたと錯覚させることができます。ゆえに、犯人は密室内に存在していたとは断定できません。

 

【2. どのように2つの物音を作りだしたのか】
 テープレコーダーの類いは存在していなかったので、二階堂黎人ポール・アルテのような仕掛けを使った物理トリックと考えていきます。となると、気になるのはトリックを発生させるトリガー。物音が聞こえるまでに現場に働きかけられた力としては、矢津井の「ノブを回す」「ドアを叩く」行為のみがありました。これがトリガーと考えてトリックの検討を進めます。

 

【3. 「ゴトゴトした音」はどのようにつくりだされたのか】
「ゴトゴト」というオトマトペがやや抽象的ですが、なにか硬質ものをフローリングの床に落とすことで再現できる音と判断します。現場に落ちていてるもので音が再現できそうか否か判別していきます。
・ジャグリング用のクラブ⇒いけそう
・携帯端末⇒軽すぎ
・タオル⇒同上
・生首⇒トリック感あるけどべつに床に落ちてない
 ということで「ゴトゴト音」はジャグリング用のクラブがどこかから落下したときに鳴ったものと考えます。


【4. どのようにクラブを落下させたのか】
「クラブをまず机の上に置いておく⇒ドアノブとクラブの持ち手の部分を糸でつなぐ⇒ノブを回すと糸の張力で引っ張られたクラブが床に落下する」という初歩的な物理トリックで可能です。この場合、ドアノブとクラブをつなぐ「テープ」と「糸」が必要となりますが、テープに関してはドアノブに赤いビニールテープが張られていたことが明かされています。


【5. 糸はどのように回収したのか】
 現場から「糸」の存在は確認されませんでした。もしこの方法で物音を作り出した場合、糸はどこかのタイミングで回収する必要があります。それができたのは現場の確認作業のときのみ。というわけで、犯人は矢津井惣太です。そもそも殺人現場に犯人がいるという状況なら、逃げるのが一般的な人間の感覚として正常です。それがなされなかったのは、矢津井が先頭に立って犯人の後を追おうとしたため。「おい! 誰かいるのか!」「誰か、いたよな……」と犯人の存在を強調してるのも矢津井です。糸の回収のタイミングについてですが、遺体の「首の切断面」を見たときに要が目を背けているので、この瞬間をつくるために、首を切断したと考えることができます。これは、詠坂雄二の『遠海事件』内での首切り講義でも触れられている首切り理由です。

 

【6. 「ガラスが割れる音」はどのようにつくりだされたのか】
 窓なんてあらかじめ割っておけばいいので、あの状況下でどのように「ガラスが割れる音」を作り出せたかを考えていきます。対象描写からは見いだせませんが、ガラスの破片が現場に散らばっていることは自明と判断します。クラブが落下すると想定されている位置にガラス板を置いておけば、そこにクラブが落ちたとき、ガラスが割れる音を作り出すことができます。クラブの先端部には割れ目がありましたが、ガラス板との衝突の衝撃でそれがついたと考えることができます。これだと「ゴトゴト音」と「ガラスが割れる音」が同時に起こってなければおかしいのですが、「ゴトゴト音⇒テーブルの上でクラブが倒れる音」「ガラスが割れる音⇒クラブが落下してガラス板と衝突する音」とここでは考えます。

 

 以上が現時点の推理だけど、暗示されている作品テーマ的には、これらが「犯人の仕掛けた偽の手がかりから導かれる推理」という可能性も大いにありえるので、続きを追わないことには、まだなんともという感じかな~。