鍋の中にはカルプフェン

こい(@gyaradus)のブログ

【古生物】土屋健の『古生代の生物』──幻想的なもうひとつの地球

 土屋健の『生物ミステリー』シリーズ、化石とそこからイメージされる古生物のイラストが図録に満遍なく描かれているんだが、その幻想的な光景と、知的好奇心を刺激される解説がおもしろく、一気に読んでしまった。
 生命をその起源から追っていくというスケール、多面的な推論により構築された世界観。出てくる生き物たちは身近な生き物と似ていながらどこか違って、舞台となる世界地図も現在とはまったく違うもの。そしてそれが読んでいる間にも変動を続ける。同じ地球での出来事なのにも関わらず、まるで別世界の話を読んでいるようだ。天地創造を間近で見たかのような神秘的な気分にすらなる。
 エディアカラ紀と古生代の気に入った生物たちについて、各地質時代から代表選手を選びながらここに書き溜めていくこととする。


【0.エディアカラ紀】

ディッキンソニア
 このシリーズで最初に紹介されることとなる生き物なんだが、とにかくその姿のインパクトがとてつもない。元禄小判、目玉焼き、そしてエアマット。これらを足して割った感じといえば、わかってもらえるだろうか。プニプニした楕円形の身体に、小判の筋のように節がついた、ただそれだけの形。解説によるとその筋のどれもが空洞になっているらしく、真夏のビーチでみかけるエアマットと同じ構造なのだ。
 現存の動物って、殻があったり硬い外骨格をもっていたり毒をもっていたりと、なにか外敵から身を守る機能があるのだけど、こいつはそんな機能は見受けられない。なんかもう、ただ、存在している。存在していてもだれにも害されることがない。だから、こんな大胆な姿でいられる。目どころか口さえあるかわからない。というかどこが前でどこが後ろかもわからない。現存の生物の常識をあまりにも越えている。
 エディアカラ紀の動物はほかにも、単なる葉っぱとなにが違うかわからないような生物など不思議なものが多数紹介されているが、これらの抽象的な姿は、可愛いとかキモいとかという感想を通り越して、もはや神聖とすら思える。デュエルマスターズの光文明のクリーチャーを見ているかのようだ。でもたしかに、世に生命の起源といえるものがあるとしたら、“こういう姿”こそがふさわしいのかもしれない。


【1.カンブリア紀

オピバニア
 なんかもうツッコミどころだらけの姿だ。なんで眼が5つなんて半端な数なの? なんで頭にノズルがついてるの?(ゾウの鼻みたいなものだそうだ)なんというかもうなんでもアリな姿がとにかくおもしろい。古生代に入ると、三葉虫とかアノマロカリスとかハルキゲニアとかいわゆるメジャーなやつらが出てくるようになるんだが、このあたりになると神聖というよりは「可愛い」とか「キモい」ということばがふさわしくなる。洗練されているとはいいがたいが、生き残るためにとにかくいろいろ機能をつけていった姿が、どことなく愛らしく、好奇心をそそる。


【2.オルドビス紀

アサフス・コワレウスキー
 三葉虫というと、ひらべったく硬いダンゴムシ……みたいな印象も持つひとも多いだろうが、一万種もあってなかなか多様だ。立体的なやつとか、トゲトゲしたやつとか、オルドビス期の三葉虫は、三葉虫にたいして持っていた固定イメージを打ち破っていく。どれもその形が化石にしっかりと残っているのでロマンを感じさせる。
 このアサフス・コワレウスキーというやつは、一般的なイメージの三葉虫ににょきっとかたつむりの眼がくっついた姿を想像してもらうとわかりやすい。しかしこのカタツムリ眼、そこに関節がなく硬組織で、望遠鏡のような形態だったそうだ。オルドビス紀三葉虫の多様性を体現した一匹である。


【3.シルル紀

プテリゴトゥス
 ここらでカブトガニやサソリの仲間なんかがではじめて、その姿もいまとあまり変わらないものだから、遠く離れた地で友だちにあえたような気分になってくる。この時期なんだから当たり前だが、サソリは海生動物だったらしい。そして当時の海にはウミサソリなんてやつらも生態系のトップとしていたのだが、じつはサソリとは系統的に近くなく、むしろクモのほうが近いようだ。
 ウミサソリのプテリゴトゥスは、ものによっては2m越えのものもいたらしい。ハサミをもった見た目は正直いってエビっぽさもあるから、巨大なロブスターのようで美味しそうだと思った。


【4.デボン紀

ダンクレオステウス
 三葉虫はファコプス類という大きな複眼持ちのやつが出てきて、ダイオウグソクムシとか身近な等脚目に近い雰囲気になっていく(グソさんが身近かどうかは知らないが)。カブトムシみたいな大きなツノをもったものもいておもしろい。
 中学生も知っているイクチオステガがここで登場して、「だいぶ“いま”に近づいてきた!」となるんだが、なんと指が7本で、越前リョーマより1本多い。同じくデボン紀に登場したアカントステガも8本指だそうで、このバカでかいカエルたちも現在と比べるとまだまだフリーダムな構造をしていたらしい。意外と身体を動かすのも難しかったようで、まだまだ発展途上といったところか。
 デボン紀といったらやっぱりダンクレオステウスだろう。10mの巨体、噛む力はホホジロサメやアリゲーターを越え、この時期の生態系の頂点。共食いまでしていたらしいという獰猛な性格の持ち主で、とうとう強そうなやつがきた!!と大興奮だ。この章に入るまで偽エビだの変わった貝だのデカいサソリ(サソリの仲間ではない)だのが生態系の頂点だったことを考えると、ホホジロサメすら食い殺してまうであろうこいつが出てきたのはなかなか感動的である。やっぱりデボン紀で一気に生物の攻撃力(?)が上がった印象がある。


【5.石炭紀

レティスクス
 ロボク・リンボク・フウインボクの地質時代として学校で習う石炭紀。両生類は多様になってきて、生物の姿も洗練されてくる。カンブリア紀のようなトンデモない姿の生き物が数を減らしたのは残念だが、陸上は少しづつ賑やかになり、ペルム紀中生代への準備が整い始める。
 レティスクスは、美しい白蛇のようだが両生類。いまは絶滅してしまったが、両生類にも蛇に近い系統の生き物たちがいたようだ。


【6.ペルム紀

ヘリコプリオン
 デボン期でだいぶ滅んでしまった三葉虫がここでとうとうサヨナラしてしまう。寂しい限りだが、陸上もかなり賑やかになり、巨大な両生類や単弓類が登場して、恐竜の時代が近いことを感じさせる。2mの肉食両生類エリオプスが、とくにインパクトと感動が大きい。カエルの仲間が、こんなワニよりもでかい体躯だなんて想像できるだろうか。水生動物である幼体はどんな形状なのか気になるところ。イモリの赤ちゃんやオタマジャクシみたいなノリで、でかいサメみたいなのににょきにょき手足が生えてくるのか……?
 しかし、いちばん印象深いのはヘリコプリオンだ。Ray Trollの挿絵がずらーっと並んでいるが、その様態は20ほどある。らせん状に巻かれた歯の塊しか化石が見つからないため、どこの部分がわからなかった歴史があったようだ。あるものは鼻、あるものは口、あるもの尾びれにこの謎の電動ノコギリが合体させられていたが、いまでは下顎に位置すると考えられているらしい。復元図ではサメっぽい姿に電動ノコギリ状の顎を持ったヘリコプリオンが描かれているが……。この時期の魚としてもなかなかシュールな姿だ……。

 中生代新生代の『生物ミステリー』シリーズも今後紹介していくかもしれない(「may」くらいの可能性)。