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こい(@gyaradus)のブログ

【目黒ひばり】『声優ましまし倶楽部』――青い鳥症候群のこわさ

 

 目黒ひばりの『声優ましまし倶楽部』。原作者が声優業界に関係あるわけでもないのに、「暗澹とした声優業界の内実を暴露!」みたいな触れこみで売ってしまったため、それなりに叩かれたマンガだ。声優業界は、ほかのエンタメ業界と比べても消費者の「夢」を守る努力が必要だろうから、売れっ気だけで「業界の嫌な内実」的なものをでっち上げられたらたまったもんじゃないだろう。

 しかし、このマンガ自体はおもしろかった。主人公の「いろはる」のキャラ造形がすごくリアルだ。裕福な家庭育ちで親からの愛もしっかり受けているけど、人間関係がうまくいかない。自己が肥大しすぎていて、相手とうまく歩調を合わせることができない。最初はその無垢さで気に入られることも多いが、思いこみの激しさや強い階級意識で、周囲を不快にさせてしまい、けっきょくはひとが離れてしまう。声優の才能もなくはなさそうなのだが、地に足をつけた努力ができず、「もっといい場所があるのでは」と次から次へとさまざまなものに手を出してしまうから、けっきょくなにも成功しない。なんだか少女マンガの“夢見る主人公”が現実空間に置かれたらこうなるんじゃないか、と思えてくる。この気質が治らないことがなんども提示されるから、コミカルなノリとは対照的に、読み心地はじつにダークで鬱屈している。

 作中で指摘されているように、現在は声優志望者の数が20万、30万という数になっている。倍率を考えると声優になるために必要な努力って生半可なものではないと思うんだが、スポーツやマンガと比べて、幼い頃から才能が比べれる場がない(ように見える)から、いろはるのように気軽に「一発逆転を目指そう」というひとも多いんだろうか……。そのあたりは数多のラノベ作家志願者に近い気がする。

 いろはるの友人で人格者の碧は、声優の道は諦めるものの、地に足をついた生活をしながら、自分のやりたいことを続けていく。夢を追い続けるいろはるとは対照的に、夢と折り合いながら生活していくことを選ぶ人物像だ。こういうキャラクターの存在があるのは、救いとなっているかもしれない(いや、いろはるの破滅ぶりを強調してるかも……)。