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こい(@gyaradus)のブログ

【S・キング】『ミスト 短編傑作選』――2022年3月に読んだ本について

 3月にミス研(リーズニング・クラブ)での活動として、人生初となるホラー短編の執筆を行った。


 今回は、作品制作においてとくに影響を受けた5作品を紹介する。


1.『ミスト 短編傑作選』(スティーヴン・キング

 ミス研(リーズニング・クラブ)の3月の課題本。「各作品でキングはどのような工夫をこらしているのか?」が話の焦点となった。ホラー短編制作においてもっともわたしが注目したのは、「ノーナ」だ。これは、「男の支配欲」を描いたものと解釈した。縦に切り裂かれた“ノーナ“の死体は語り手が形容しているように《子宮》のシンボルだし、彼女が巨大なネズミをモチーフとして描かれているのは、ネズミの驚異的な繁殖力を反映してのもの。愛がどうのこうのいっていても、人間を支配するのは本能的な欲求なのだな、と思わされる。制作したホラー短編について、フロイトの理論を使用しようという着想は、ここから得た。


2. 『武器よさらば』(アーネスト・へミングウェー)

 作品で用いる文体について、「肉体的な感覚」「人間が本能に帰すイメージ」から連想したのはへミングウェーだった。『スタンド・バイ・ミー』で触れられているように、課題作家であるキング自身もへミングウェーの文体によるところが大きい。戦争の中、「名誉、尊厳、栄光」といった人間を気取らせる観念が消えて行き、暴力や死といった生き物の自然に帰していく様子は、作品制作において大きな刺激となった。


3.『蠅の王』(ウィリアム・ゴールディング

 2月に読んだ本として一度紹介してしまったが、今回の作品制作をまとめる上で外せない一作だろう。社会から隔絶された空間において、新たな秩序が作られる。そしてその秩序は原始的で、生き物の本能に、より近いものである。どこを模倣したかについては、この型を説明するだけで十分だろう。ネタを明かせば、「ゴールデン・インク」というタイトルは、『蠅の王』の作者であるゴールディングからとっているし、『魔王』のイメージで始まり、《ハエ》で終わるのも、本作を意識してのこと。なにより、「正体のつかめないなにかしらの恐怖」という概念は、あの《蠅の王》の姿そのままだ。


4. 『エロス論集』(ジークムント・フロイト

 読書会でフロイトの理論について話したら、案の定、笑いが巻き起こった。「欲望転換、特に肛門愛の欲望転換について」によれば、子どもはうんこで、「幼児の性器体制」によれば、細長い棒(ペニスの代用品)を持っている人間は男で主体で能動者だ。フロイトの理論は錬金術に近いものだから、オカルトらしさを感じるのはしごく当然のことだが、それでも本書の与えてくれる「人間の本質に触れるようなゾクゾクする感覚」は、文芸作品として価値を持っている。今回は、聖書やシェークスピアのような感覚で「一種の文脈」として、これらの理論を作品に埋めこませてもらった。


5.『僕が死ぬだけの百物語』(的野アンジ)

 王道を押さえながら、しっかり怖くておもしろいホラーマンガ。たとえば、「第一夜 つれびと」は、「事故で死んだ恋人の霊が自分を道連れにしようとする」というよくある筋の怪談なのだが、じっさいに読んでみると、ページすべてに緊迫感が漂っていて、かなり恐ろしい。意図的にか、直感的にか知らないが、演出ひとつひとつが本能的な恐怖をつくように描かれているのだ。この「つれびと」の恐怖の本質を「スペースを侵食されること」と解釈し、ここに焦点をしぼって、構築したのが、今回執筆したホラー短編だった。



その他3月の活動

 4月~6月の読書会のテーマはアガサ・クリスティーに決定した。彼女の作風を踏襲するなら、本格ミステリの短編を書くことになるわけだが、謎解きクイズでない本格ミステリを書くのは、ほぼ1年半ぶりである。しばらくは本格ミステリや英国古典の読書量が増えるかも知れない。

 4月は高校数学の勉強をする算段である。数Ⅲの分野に興味が湧いたので、《白チャート》と呼ばれる『チャート式 基礎と演習』を使って、初歩の初歩からじっくりと理解を進めていくことにする。目標勉強時間は45時間。