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こい(@gyaradus)のブログ

【フォークナー】『響きと怒り』――2022年1月に読んだ本について

 

 いちおう本を紹介するブログのつもりで書いているので、活動記録も兼ねて2022年1月中に読んだ本から5冊について書き記す。

 

1. 『ミザリー』(スティーヴン・キング

 ミス研(リーズニング・クラブ)の課題本となった一冊。ゲストが、ポールの態度について否定的で、「アニーは推しを殺されたファン」とコメントしていたのが印象深かった。『艦これ』の《公式逆輸入問題》についての言及もあったが、「作品には読者が参加できる余地も必要」といった意識が、近年は強くなりつつあるのかもしれない。ラストの《入りこんだ女神の視線》について、「それでも自分の心の声を優先すべき」と私はコメントした。

 

 

2. 『贋作』(パトリシア・ハイスミス

 前作に引けをとらぬ面白さだった。傍から見れば異常な殺人鬼でしかないトムの呼吸ひとつひとつが、自分のことのように伝わってくる。『太陽がいっぱい』においてディッキーのコピーとして生きているうちに、トムは、絵を描くことに興味を持ちはじめ、人生の舵を自分でとろうという意識を芽生えさせた。偽物である自分を肯定し、偽物の中にある価値を信じる。トムはとんでもない悪党だが、贋作画家バーナードとの対比で描かれた彼は、それでも「人生の肯定」を体現したヒーローなのだと思う。

 

 

3. 『ソドム百二十日』(マルキ・ド・サド

 秩序(神)の価値を否定し、徹底した《相対主義》を唱えるブランジ公爵の、限りない悪党ぶりがいい。「みんなそれぞれの痛みがあって、それぞれの優しさがある」みたいな話は『タコピーの原罪』のような“しんどい”話にも組みこまれているが、そういう共感自体が、そもそも秩序がなければ存在しようがないということを思い知らされる。この訳本では『ソドム百二十日』の冒頭しか読めないから、サドの「変態さ」がどこまでのものかはまだ掴みきれていない。折を見て続きを読んでいく。

 

 

4. 『告白』(聖アウグスティヌス

 学生時代に上巻だけ読んで放置していたが、Twitterで付き合いのあるたまさかさんが言及してたので、今回通して読んでみた。聖書のテキストを起点にして独自の時間論、宇宙論が展開されていく様が、いわゆる「作品考察」の祖先めいていておもしろい。けっきょくアウグスティヌスは、徹底した「秩序」に基づいて生きることが幸せへの道と考えているようだが、《旦那に殴られない方法》として「なにがあっても旦那に逆らわず従い続ける」という意見を述べる自身の母のエピソードのあたりは冷めた目で読んでいた。

 

 

5. 『響きと怒り』(ウィリアム・フォークナー

 『ミザリー』の読書会でそれなりにフォークナーに言及する機会がありそうだったため、難解な作品として有名なこれも、参考までに目を通しておこう、と手に取ったのだが、想像を上回る魔力を持った作品だった。分断された時系列、かぎ括弧と句読点の消失、対象描写がまったくないシーンの連続。カフカゴーゴリが「現実的でないことが描かれているのにとても現実的」とするなら、こちらは「現実的なことが描かれているのにとても非現実的」というような読み心地で、まるで酩酊するような、あるいはパノラマの中にいるような気分になる。しかし支離滅裂というわけではなく、むしろ作品内には確固たる秩序があることが伝わってくる。そしてその層はどんどん厚みを帯びていく。小説の構造について「視界が澄んだ」という感覚を与えてくれた作品としては、『ドン・キホーテ』以来のものだ。多くの作品の元ネタとなった「型」自体が、こんなにインパクトのあるものだったとは……。

 

 

 

その他の1月の活動

 

 高校物理の勉強について、「1月中に90時間勉強する」という目標を立てたが、結果は50時間ほどだった。これを参考にして、「高校物理を40時間勉強する」ことを2月中の目標とする。今月使った教材を紹介しよう。

 

 問題演習用。苦戦するかと思いきや、すぐに全問正解を達成できた。初学者向けの教材ということもあるだろうが、『物理のエッセンス』であらかじめ慣れを作っていたことが大きかったようだ。

 

 理解が曖昧な部分が多かったので、改めて読んだ。《単振動の周期》、《気体分子運動論》、《光の干渉》、《ボーアの量子条件》といった単元の、さまざまな原理が数式でカチカチとつながっていく感覚が、小気味よくておもしろい。とくに《単振動の周期の公式》については、等速円運動やフックの法則から導き出されたものであるにも関わらず、「おもりの重さ」や「ばねの硬さ」といった観察的な感覚でもしっかりと納得させられるというのが、感動的だった。電磁気編の《交流》も近いうちに読み返そう。

 

 

 現在解いている途中。『マーク式基礎問題集 物理基礎』と比べて範囲が広いため、理解が曖昧な部分がよく見つかる。全70問ほどをコンプリートし次第、『物理のエッセンス』に戻る算段。こうして見ると、なかなかじっくり時間かけてやってるな……。