鍋の中にはカルプフェン

こい(@gyaradus)のブログ

【ミステリー】マリトッツォよりもマリトッツォみたいな味がするおやつコッペリッチミルク──パンにまつわる短編ミステリ3編を紹介


 ローソンで販売されているおやつコッペリッチミルクというやつだ。
 在日イタリア人のマンガ家?が「イタリアの味」などSNSで紹介してたので買ってみた。これがかなりおいしい。コッペパンに汁気たっぷりで、ひとかじりするたびにクリームがあふれていき、口の中にミルクのほんのりとしたやさしい甘みが広がっていく。コッペ生地のそっけないなさがうまい具合に甘さを中和してくれて、これがまたいいのだ。
 ローソンにはマリトッツォも大量に販売されていたが、わたしにはマリトッツォよりもこのおやつコッペリッチミルクのほうが、マリトッツォだと思った。つまりは、わたしのイメージしていたマリトッツォにちかいおいしさだった。
 おやつコッペリッチミルクのおいしさがわたしの伝えたいことのすべてなんだが、いちおうこのブログは、毎回なにかしら本の紹介をすることになっているので、《パンにまつわる推理小説》でも紹介することにする。


【①パンの身代金/大山誠一郎

『赤い博物館』のスタートをかざる短編。大山誠一郎のミステリのエッセンスが濃縮されており、この短編集の魅力を伝えるうえでも欠かせない一編だ。硬質な筆致でしっかりと描かれた証拠品の描写が「なにかあるんだろうな……」と予感させるが、その先行きはまったく見えない。しかしひとたび推理がはじまると、ドアのついた通路を次々と開いて抜けていくようなカタルシスの連鎖がはじまる。
 しょうじきいってこの短編は非常におもしろいんだが、あまり熱入れすぎると、おやつコッペリッチミルクよりも、こっちがメインになってしまうから、紹介はここらへんでとどめておく。てかこれ製パン会社の事件なだけで、そこまでパンが関わる感じではなかった。


【②魔が差したパン/O・ヘンリー】

 O・ヘンリーの最高傑作だとわたしは思っている。この作者らしい素朴な心の動きを描いたうえで、自然な伏線をはっていき、ガツン!と頭を殴られるようなツイストを決める。「賢者の贈り物」や「最後の一葉」とはまたちがった印象の、作者のストーラーテラーとしての才が光る作品だ。パンが関わっているけど、これそこまでミステリという感じではないな……。


【③パンは知っていた/蘇部健一

 ノベルス版の『六枚のとんかつ』に収録されている、しっかりとパンが関わるミステリだ。文庫未収録だったこの作品のことが気になって、わたしはノベルス版も購入した。
 わたしは以前、ワセダミステリ・クラブの講演会で著者の蘇部さんにお会いしたことがある。物腰おだやかな紳士で、さまざまな質問に対応してくれ、とても立派な人格の好人物だと感じた。六枚のとんかつ』の続編である『六とん2』にも「三色パンの秘密」というパンが関わるミステリ短編が収録されている。あとがきの自作解説がなかなかおもしろいので、気になったら目を通してみよう。