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こい(@gyaradus)のブログ

【鎌倉文学】『徒然草』「第231段」──「○○周年を記念して~」みたいな体裁で企画がはじまるめんどくささ

 FFの信国さんがツイッターエラリー・クイーンの長編ATB企画をやっている。「ドルリー・レーンシリーズ完結90周年を記念」らしいが、なにが記念すべきことなのか意味がわからない。こんなんいいはじめたら、「ドルリー・レーンシリーズ生誕○○周年記念」「国名シリーズ完結○○周年記念」「フレデリック・ダネー没後○○周年記念」、なんでもアリではないか(悲劇四部作内の人気投票ならまだわかるけど)。
 近年、ライツヴィル以降の作品が越前訳でまたあたらしく読めるようになりはじめている。『十日間の不思議』(じつは2012年の文春ATBでは200位圏内にも入っていない)あたりは近年流行りのテーマとの結びつきもあって高順位が見こめるし、ランキングの結果が気になるひとは多いだろう。そんなわけで「なんかATB企画やりたいのでATB企画やります」でべつにいいのに、なんかのきっかけによってついでにはじめるような体裁が取り繕われるのは、なかなかにめんどくさいものがある。

徒然草』の「第231段」に、料理の達人である別当入道のエピソードが紹介されている。あるひとのところで、みごとな鯉が出されたので、その場にいた人たちは別当入道の包丁さばきを見たいと思ったが、リクエストするのも不躾だということで躊躇していた。そこで別当入道が「このごろ百日ほど鯉を料理しています。今日だけ切らないわけにもいかないので切らせてください」といって、みんなに気を使わせることなく、包丁さばきをお披露目した、という筋だ。
 これをきいて西園寺実兼が「ほかに切るひとがいないなら私が切ります、でいいだろ」とコメントしており、吉田兼好もそれに同意を示している。百日も鯉を切り続けているなんて意味不明で、そんな前置きを用意してまで、「なんかのついでにやる」、というような体裁をとるのは興醒めだ、とここでも触れられている。

 ATB自体は、その時代ごとにどのような作品が支持されていたかを知るための指標として価値がある。近年、なんかブロガーだか企業だかが怪しげなランキング企画を連発しているので、胡散臭い雰囲気をおびてきているけど。わたしの好きなクイーンの長編として、『フランス白粉の秘密』、『オランダ靴の秘密』、『Xの悲劇』をあげておこう。